フランソワ・トリュフォー暗くなるまでこの恋を
ついに買ってしまったトリュフォーDVDコレクション(中古ですが)より。ジャン=ポール・ベルモンド、カトリーヌ・ドゥヌーヴ主演。いまでいう出会い系(新聞の広告欄にプロフィールと相手の理想像を投稿をして文通をはじめるというものだが)でしりあい、結婚したふたり。だが、じつは女は男が文通していた相手になりすまして偽装結婚をたくらみ、金をもちにげしようとするしたたかな悪女だった。まんまと女のたくらみにひっかかった男は貯金の大半を女にかすめとられてしまう。女をニースで偶然みつけだした男は女を銃で殺そうとするが、まだだまされていたころの愛情からめざめられない男は女をゆるし、さらには追跡されている女をかくまうべく逃避行を開始する。
最後の最後まで幻想からさめられずだまされつづける男になかば愛想をつかしながらも、圧倒的な悪魔的牽引力で男(ども)をすいつけるドゥヌーヴの魔力にこちらもついひきつけられてしまう。また、物語の進行においてたびかさなる偶然(タイミングよすぎ!とおもってしまうような)がかえって強い作為性をきわだたせるが、かえってこの種の物語においてはそのことがほどよいスピード感をうみだしていた。ドゥヌーヴがささやく「愛している」の言葉は、ラストシーンのあの深刻な場面においてさえ、その真偽をうたがわずにはいられない。こうかんがえてしまえば男のほうの「負け」は必然的で、嘘かほんとかわからないあやうい境界線上においてただようドゥヌーブの幻影に男はただとりつかれるよりほかはないのかもしれない。サルトルが「嘘」の条件のひとつとしてあげた、そしてふだんは忘れているが恋愛関係においてしばしば問題となる人間と人間とのあいだの「存在論的分離」が、鑑賞後の掻痒感とともにつよくかんじられた。これが人間関係において本質的なものなのかどうかという点については即座に判断しかねるが。
暗くなるまでこの恋を [DVD]

今日の一曲:Jenny Lewis with the Watson Twins, Happy in Rabbit Furcoat
Rabbit Fur Coat